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「内部通報制度」は中小企業の味方!?

2017年12月8日

皆さん、「内部通報システム」をご存じでしょうか。
内部通報システムとは、簡単に言えば、「従業員が不正等を見つけたときの連絡先を用意しておくシステム」です。現在、従業員300名を越える会社では内部通報システム導入率は70%を越えているのに対し、従業員数が300名を下回る会社では導入率が40%を割り込み、従業員数が10名以下の会社では10%程度しか内部通報システムを導入していません。消費者庁が行った実態調査によりますと、「必要性を感じない」「制度がなくてもうちの会社は大丈夫」などの意見があったようです。
しかし、これらは全くの誤解であると言わざるを得ません。実際には中小企業こそ内部通報システムは必須なのです。
私がこのように説明すると、必ず「なぜですか?」と言われます。そのとき、僕は次のような質問をしています。
「ほとんど同じ品質の同じ商品を売っているA社とB社の2つがあります。現在の売上げはほぼ変りません。」「しかし、2社には違いがあります。A社には顧客向けの専用のクレーム窓口があります。B社にはそのような窓口はなく、苦情の電話や手紙も手の空いた者が対応するだけです。」「5年後に2社の商品の品質は同じでしょうか?2社とも売上げは変らないままでしょうか?」
ほとんどの経営者はこう答えます。「当然A社の方が、品質も売上げも上っているでしょうね。」
「なぜでしょうか。」
「専用のクレーム窓口があるということは、単にクレーム対応するだけでなく、そこから商品の品質を向上させるためのアイデアを探そうという意図があるはずです。5年も経てば商品の品質は相当向上しているでしょうね。『クレームは品質向上の大切なヒント』とはもはや常識です。我が社もお客様からのクレームを重視しています。」
そこで僕は最後の質問をします。「では、社内の不祥事防止、作業効率向上のための『社内クレーム対応窓口』がある会社とそうでない会社は5年後どうなっていると思いますか?」

「内部通報窓口」とは社員側から見た表現で、多くの方はその呼び名に惑わされて「我が社では不要」と考えたり、導入している企業でも単に「社員のためにとりあえずおいている」という利用方法しかしていなかったりしています。しかし、経営者側から見るとき、「内部通報システム」とは実のところ、「社内情報収集システム」なのです。
社内情報を集めるためには、「専門家に定期的に社内の検査をさせる」ことも金銭的余裕(しかもかなりの余裕)があればもちろん可能でしょう。しかし、最も簡単でかつ有効なのは、「従業員の『伝えたい』という気持ちをうまく利用する方法」なのです。
日々現場で汗を流している従業員は敏感に「社内の不正」「問題点」に気づいています。しかし、それを直接経営者に伝えることは稀です。それは「裏切り者になる」「ばれたら社内で孤立する」という恐怖心からです。そこで、「従業員が気づいたことを申告しやすい仕組み」が必要になります。ただ、その窓口を社内におく、例えば「通報窓口は総務部へ!」では全く意味がありません。事実上「匿名性」がないからです。最低限でも「外部窓口」であることが必要です。匿名性が確保されるなど安心感を与えれば、自然と従業員は「社内の問題点」を伝えてくれます。「あんなズルは許せない」「あいつだけ良い思いしやがって」「お世話になっている社長を裏切っているようで黙っておくのがつらい」など動機は様々ですが、いずれにせよ「他人の不正は黙っていたくない」というのが人間です。そこに「言いやすい仕組み」をつくって情報収集するのが「内部通報システム」なのです。
戦国時代の大名は情報の重要性をよく知っていました。金を払って間者(スパイ)を雇うのは当たり前で、生き残りをかけて情報を集めたのです。情報収集不足で、隣国の動きを察知できずに大打撃を受け、または身内や側近の裏切りにも気づかず、地位を追われる例も多くあったのはご承知の通りです。
今、世の中は極度の「潔癖主義」が支配しています。一度会社に悪評が立てば取り返しの付かない大打撃を受けてしまいます。「社内の不正を知らなかった」「身内の裏切りに気づかなかった」と嘆いても、「情報収集」を怠った経営者を救ってくれる人はありません。

このように「内部通報システム」は「社内情報収集ツール」ですから、経営者の立場に立てば、①不正(横領や法律違反行為など)情報を早期に把握して対策を立てることができるだけでなく、②業務効率向上のヒント、③問題社員の発見(問題社員は上司にこびるのが上手い人が多いので、経営者には分からないケースが多くあります)、④社員の不穏な動きの把握(正当な不満・不当な逆恨み、どちらもありますが、対策が必要なのは同じです)、⑤嘘の「内部告発」(これが最近は急増しています)の回避など、そのメリットは多岐にわたります。だからこそ、現在、消費者庁が内部通報システムのガイドライン策定に力を入れ、中小企業庁はリスク回避対策が企業価値を高めることを宣伝するなど、国を挙げて全面的に導入を推進しているのです。

チェックポイント
  • 「従業員の声」は会社改善のチャンス!
  • 「従業員の声」を生かせない会社の5年後は危険

弁護士法人フォーゲル綜合法律事務所
弁護士 嵩原 安三郎